「地域をおこす協力隊」として農家に初挑戦した脇田さん
「フィンガーライム」という果物を知っていますか?
「森のキャビア」とも呼ばれ、ライムのように絞ると果汁ではなく粒状の果肉が溢れ、料理の彩りや風味のアクセントとして、魚料理・肉料理・カクテルなどに添えられるオーストラリア原産の柑橘類です。
今回はそんな少し珍しいフィンガーライムを曽爾村で育てている、起業型地域おこし協力隊2期生の脇田さんにお話を伺いました。
協力隊として約2年間活動されてきた脇田さんだからこそ感じる「曽爾村での起業」について迫ります。
曽爾村で新しい挑戦を考えている方にぜひ読んでいただきたいお話です。
脇田さんがこれまで歩んできた道のり
───まずは、脇田さんが曽爾村で暮らす前にどんなことをされてきたのか教えてください!
「高校卒業まで奈良県奈良市で育ちました。高校卒業後は、奈良市で服の買い付けなどの仕事を2年くらいしていました。そのあとは、大阪のアパレルで働きつつ、Barで働き始めたんです。そのとき『服を扱う仕事をするより、人と喋る仕事が好きだ』と思って、22歳の時に飲食業界へ転向しました。」
───どんな飲食店にお勤めされていたのでしょうか。
「ベトナム料理店です。数年働いたあとに、3年ベトナムに住みました。実際にベトナムで暮らしてみて、ベトナムの文化と料理にすごく惹かれたので、日本に帰ってきたあとも、一度辞めたベトナム料理店のマネージャーと店長をしていました。
30歳の時に独立して、4年くらい経ったとき、その時の店長が『この店がほんまに好きや』って言ってくれたので、その店長にそのお店を売却しました。」
───ご自身のお店を売却した後も飲食業界で働いていらっしゃったのでしょうか。
「店を売却した後は、飲食店を作る仕事をしていました。アドバイザーとして店舗の中に実際に入って、店舗を改善する仕事です。コンサルタントって、『数字を見て、ここの数字を上げよう』という形をとることが多いですが、飲食店のコンサルタントは絶対にお店の中に入らないと分からない仕事なんです。スタッフと店の上の立場の人たちの不平不満の間を取り持って、改善すると、スタッフが喜んで仕事をするようになりますよね。そうすると、店全体に笑顔があふれる楽しい店になって、それがお客さんに伝わるんです。そうすると自然と味も美味しくなるんです。そういったサポートをしていました。」
───ずっと飲食店に携わっていた脇田さんならではのお仕事みたいですね。
「実は、関西ではコンサルタントってあまり浸透していなくて、必要ない、と言われてしまっているんです。お店を出店しようと思ったら、自分たちで場所を見つけて、そこでどのくらい人通りがあるか自分たちで計測する、みたいなことが関西ではよくあるんですよ。
でも関西に飲食店のコンサルタントが広がっていないから、僕がコンサルタントを始めたんではないんです。自分自身も昔、飲食店のスタッフとして働いていた時、すごい辛かったことがあって、今も同じ悩みのあるスタッフがいるんじゃないか、と思って始めたんです。」
協力隊を目指すきっかけ
───飲食業界でご活躍されていた脇田さんですが、なぜ曽爾村で起業型地域おこし協力隊を目指されたのでしょうか。
「実は、3年前まで曽爾村のことは知らなくて、たまたま高校の同窓会で意気投合した友人の地元が曽爾村だったんです。その友人の実家の敷地でテントを広げてキャンプした日の朝、僕や知人の心にあった3つのモヤモヤが、曽爾村の畑を使って一気に解決できそうだ、と思ったことがきっかけです。」
───3つのモヤモヤって何でしょうか…?
「1つ目は、飲食店コンサルタントの仕事をしている時に出会った看護師のコンサルティングをされている方に、看護師の接遇改善の手伝いをしてほしい、と言われ、老健施設で少し働いていた時期に感じたモヤモヤです。折り紙などで四季を感じさせる飾り付けを病院内でしていたけれど、『食』でも四季を感じてもらうことができないか、と思っていたんです。
2つ目は、曽爾村でキャンプをした日の朝に合流した知人が思っていたモヤモヤです。その人は、重度の障碍者福祉施設の社長なんですけど、曽爾村の広い畑を目の前にして、行動支援の一つとして重度障害を持つ子供たちを連れて来られる畑があったらいいな、と思ったらしいんです。
3つ目は、僕が飲食店で働いていた時に感じたモヤモヤです。飲食店は、だいたい農家⇒市場⇒八百屋というプロセスを通して野菜を買うので、お客さまに提供した野菜に対して『なぜこの部分が黒いの?』『このつぶつぶは何?』という疑問があったときに、農家さんに直接問合せするのではなく、八百屋さんに問合せないといけないんです。八百屋さんは市場の方に聞いて、市場の方が農家さんに聞くというプロセスを経て、返事が返ってくるのは1時間後になってしまう、なんてことがもどかしいんですよ。お客さまに提供した料理を取替える対応ではなく、問題がないことをリアルタイムに説明したいという思いがありました。野菜のことや仕入れているものに対する疑問に対して、リアルタイムに答えてくれる人が欲しい、と思っていたんです。」
───3つのモヤモヤを曽爾村でどのように解消できると閃かれたんでしょうか?
「曽爾村の畑を借りることで、3つのモヤモヤは一気に解消できると感じたんです。子どもたちを連れて畑作業を体験してもらえる。そして、畑でできた四季折々の野菜を老健施設のおじいちゃんおばあちゃんに持って行くことができる。さらに、自分が生産者になって、リアルタイムで仕入先の疑問にすぐに答えられる環境を整えられる。畑を借りて、3つの事業に挑戦しようと思ったんですよ。
今は、太良路という集落で畑を借りて、子供たちが畑作業を体験できるようにすることと、老健施設に四季折々の野菜を持って行くことを、従業員に任せながら少しずつ取り組んでいます。そして、自分の家の前にハウスを建て、フィンガーライムの生産者としてあちこち飛びまわっています。」
───生産者になると決意した脇田さんは、なぜ「フィンガーライム」を選ばれたのでしょうか。
「ベトナム料理屋で働いていた時から気になっていた食材だったんですよ。関西ではあまり出回っておらず、ベトナム料理に使う場面もほとんどなかったので仕入れてはいなかったんですけどね。でも、自分が生産者になるって考えたとき、イタリアンやフレンチのレストランの知り合いがたくさんいるから、そういったお店に卸す需要がフィンガーライムにありそう、って思ったんです。」
起業型地域おこし協力隊だからこそできたこと
───起業型地域おこし協力隊の制度を利用して、3本柱で事業を始められた脇田さんですが、協力隊1年目はどんなことをされていらっしゃったのでしょうか。
「僕は、今まで農業をしたことがなかったので、『ほんまに野菜って作れるの?』ってところからのスタートでした。畑をお借りして、試行錯誤しながら『こういうことができたわ』っていう実績を作っていくところから始まりましたね。さらに同時進行で作った野菜の売り先も探さないといけなかったので、営業にも回っていました。曽爾での畑仕事って夕方からすることがなくなるので、畑で作業した後に大阪に営業に行ったこともありますね(笑)。」
───ここまでお話を伺っていて、かなりハードなスケジュールをこなされているように感じます…。
「僕は、がむしゃらに働いたらお金儲けができると思って、3つの事業を必死にやっていたんです。でも、毎月行われる協力隊の活動報告会で『3つの事業を全部やるのは、体がもたない』と言われていたんです。さらに、上手く立ち上がってきたフィンガーライム事業にまずは力を注ぐことを助言してもらえたので、フィンガーライム事業に集中する方向にシフトしました。
協力隊制度が無かったら、僕の事業は2年遅れていたと思うんです。起業型地域おこし協力隊っていうのは、1人で事業をやっているようで、1人じゃないんですよね。曽爾村役場さんや伴走支援してくれるSONI SUMMITさんもいるんですよ。何か分からないことに対して、聞きに行く時間さえ惜しいときに、いろいろと意見交換させてもらえる活動報告会などがあるのはありがたいです。」
───フィンガーライム事業に注力されるようになったとのことですが、実際にどのくらいの生産をされていらっしゃるのでしょうか。
「2025年は、毎月6,300gくらい収穫できました。2026年には今の3倍の規模の新しいハウスを建てる予定もあります。
飲食店からすると、全ての野菜や果物の発注を八百屋さんに任せる方が楽で、フィンガーライムだけ発注先が別ってかなり面倒くさいんですよ。それでも発注してもらえるように、自分自身で営業に行って、配達して、顔を売ることが大事だと思うんです。これは誰にもマネできひんことやと思います。」
地域をおこす協力隊
───起業型地域おこし協力隊として、約2年間活動されてきた中で、大切にしてきたことはありますか。
「僕は、協力隊制度を使わずに、曽爾村に定住することはそれほど難しいことではないと思っているんです。だからこそ、協力隊として曽爾村に住む意味をしっかり持たないといけない、と感じていて、曽爾村の好きな部分を世の中に伝えるだけでなく、それをしっかり事業にしたい思いがあります。『地域に住もう協力隊』ではなく『地域をおこす協力隊』だと思ってます。」
───脇田さんの考える「地域をおこす協力隊」とは何でしょうか。
「僕が訪れた場所で『曽爾村』と口にする機会が増え、曽爾村がもっと有名になってほしいという気持ちがあるんです。
曽爾村に人を呼ぶのではなく、曽爾村から発信して曽爾村を知ってもらうことを目指したいんです。曽爾村でしかできないものを作って、曽爾村の価値を外に出した方が良い、と思ってます。自分にとっては、それがフィンガーライムでした。」
───脇田さんのように熱い思いを持って活動していただけると、なんだかすごく嬉しいです。
「僕ら起業型地域おこし協力隊の使命として、地域のことを自分のやり方で世の中に伝えて、地域を活性化させること、そして協力隊卒業後に定住できるだけのお金を稼ぐことの2つがあると思うんです。この2つの使命のために、3年間、村長をはじめ役場の方たちが動いてくれたり、村民も注目してくれるんですよ。その期待に応えないといけない、と思っています。」
曽爾村移住を考えている方にメッセージ
───最後に、曽爾村で起業したい方にメッセージをお願いします!
「起業したい人は、この起業型地域おこし協力隊制度は一度試してみても良いと思います。
他の地域と違って曽爾村は厳しいんですよ。協力隊になるための試験も厳しいし、残るための体制も厳しいです。ただその分、自分自身にも厳しくなれます。厳しい環境じゃないと起業なんてできひんと思います。それを考えると、曽爾はいいところやと思いますよ。」
初めての挑戦をとても楽しんで情熱的に取り組まれている様子が、ひしひしと伝わってくる時間となりました。
街中で曽爾産フィンガーライムを見かけたら、ぜひ手に取ってみてくださいね。
おしまい
(2025年12月取材)
